徳島県立図書館蔵書より。改行は原文の儘。改頁は一行空けとした。原則として本字を現行通用の俗体とした。仮名としての漢字(り里/せ勢/や也など)は原則として平仮名になおした。但し、「の」に関しては「乃」「之」は其の儘とした。仮名は、地文の「ミ」「ノ」「ニ」「ハ」などは片仮名の儘としたが、振り仮名は原則として平仮名になおした。振り仮名は()で括った。一つの語句に二つの振り仮名を打っている場合があるが、(/)で表記した。句読点は原文の儘。また、本文中、項目の区切りとして文頭に記されている「・」は「▼」とした。
伊予史談会「四国遍路記集」(伊予史談会双書第3集▼昭和五十六年八月十五日発行)所収版を改訂したもので、宿を貸す「善人」の固有名詞などが殆ど省かれている。逸話も幾つか省略されており、「霊場記」が寺そのものの説明に多くの紙幅を割き、「道指南」が行程ガイドブックに偏っている棲み分けを、より徹底した形にしている。
本文に載す漢文は、返り点、送り仮名など略し、白文とした。
筆者註は【】で示した。

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四国偏礼道指南増補大成【序および阿波分】
 
此道しるべのなれる事ハ真念法師五相
三密(みつ)の縄状(しやう々々々)を出て南海(かい)千里の金城(きんじやう)を
踏(ふま)れしに多岐羊腸(たきようしやう/まきれてつヽらをり)行脚(あんぎや)のきもをけし
杳(はるか)に人家なくして岩(いわ)もる水に枕(まくら)を
かたむけ遠(とを)く客舎(かくしや/たびや)をたへてハ山を帯(おぶ)
雲(くも)をしとねとせられしまヽに迷方(めいほう/まよいぢ)を
あハれむとこヽろせちにしてふたヽびミた
び烏藤(うたう/つゑ)をめぐらし谷ふかくまた濱(ほとう)を

つくし聞て書見てしるされ九々にあまる
寺号(じがう)村つヽ【濁点】き道の遠近(をちこち)いちじるしく
一巻(ひとまき)の珠(たから)となりぬこれを梓(あづさ)にことぶき
してあまねく扶桑(ひのもと)にほどこさんとせら
れし衣鉢(ゑいはち)の外に余長(よちう/たくはゑ)なくむな
しくやみなんことをかなしまれ
けるに大坂野口(のぐち)氏(うぢ)宝財(ほうざい)を
大師の恩海(おんかい)になけられしかハ終(つゐ)に求
願(くぐはん)ことたりぬ余又御廟(こひやう)の側(かたはら)に年月

侍るまヽ呪力(じゆりき)久しく弘通(ぐつう/ひろまり)の善巧(ぜんこう/てだて)ならんかしと
しゐて清書(せいしよ)をこはるいなむ事を高祖(かうそ)の
奉為(おんため)にわすれて疎懶(そらん/ものうき)の塵(ちり)を手向(たむけ)水は
辺(ほとり)へはらひ修法(しゆほう)のいとま々々々尼(あま)妙心(めうしん)も
見やすく童児(わらはべ)もきヽやすきやうに
省略(せいりやく)するものなり
   南無遍照金剛  洪卓
寓居高野山奥院護摩堂本樹軒主  謹書

一 順礼(じゆんれい)の道すぢに迷途(めいと/まよひち)おほきゆへに十方
  乃喜捨(きしや)をはげまし標石(しるしいし)を立【指南には「埋」】おくなり
  東西(とうざい)左右(さゆう)のしるべ并施主(せしゆ)の名字(みやうじ)彫刻(てうこく)
  入墨(いれすみ)をり年月そへて文字(もじ)おちなバ
  辺路の大徳并其わたりの村翁(そんおう)再治(さいじ/ふたヽひこしらへ)
  所奉仰(あほぎたてまつるところ)なり
一 此道しるへの内に八十八ケ所の縁起(ゑんき)宝物(ほうもつ)
  等(とう)悉(こと々々)く書(かき)しるし板行(はんかう)せしむる也拝所(おがみしよ)
  其外村つヽ【濁点】旧跡(きうせき)并由来諺等を
  かきのせたり
【指南に「此道しるべの外八十八ケ所の縁起宝物等其住侶々々の御方より事書を乞請四国遍礼霊場記全部四巻高野山雲石堂主本和上の筆削をもて板行せしむるなり。此道しるべの中には納取ごとの外村つづき旧跡并由来諺等を書載せたり」】
一 此道しるべの中村々の隔(へだて)に●【。】をしるす也
  道ののりも云伝(いひつた)へのまヽ遠(とをき)も近(ちかき)もあり
     用意(ようい)の事
  ○札はさミ板  長(たけ)六寸 幅(はヽ【濁点】)二寸
                          年月日
表書(おもてかき)やう   ■【梵字の摩】 奉■【ギョウニンベンに扁】礼四国中霊場同行二人
裏(うら)書やう      ■【梵字の摩】 南無大師遍照金剛(国郡付仮名印)
右のごとくあしらゆる也但シ文箱(ふばこ)にてもよし

紙札調(かみふたとヽのへ)やう  奉納■【ギョウニンベンに扁】礼四国中霊場同行二人
札はさミのかけやう順(じゆん)にめぐる時ハ字頭(じたう)を
左にし逆(ぎやく)のときハ右にかくるなり
紙札打やうの事 其札所の本尊大師太神宮
鎮守(ちんじゆ)惣して日本大小の神祇(しんぎ)天子(てんし)将軍(しやうぐん)国主(こくしゆ)
主君(しゆくん)父母(ふも)師長(しちやう)六親(しん)眷属(けんぞく)乃至(ないし)法界(ほうかい)平等(べうどう)
利益(りやく)と打べし常(つね)に同行(どうぎやう)の恩得(おんとく)を感(かん)し
宿(やと)礼茶(ちや)礼用心あるへし男女ともに光明(くはうみやう)
真言(しんごん)大師の宝号(ほうがう)にて回向(ゑかう)し其札所の

うた三べんよむなり
一 負(をい)たわら   一 めんつう
一 笠并杖        一 莞筵(ござ)
一 脚半(きやはん)   一 足半(あしなか)
其外資具(しく/もちもの)心ニまかせらるべし惣じて足半にてつとむべしと
云(いひ)伝へたり草鞋(わらうつ)ハ札所ごとに手水(てうつ)なき事ありて手
をけがすゆへにさうり草鞋(わらうつ)にてもくるしからす
此書物出所
【指南には
一此道指南并霊場記うけらるべき所ハ
△大坂心斎橋北久太郎町     本屋平兵衛
△同所江戸堀          阿波屋勘左衛門
△阿州徳島新町         信濃屋理右衛門
△讃州丸亀塩飽町        鍋屋伊兵衛
△予州宇和島          満願寺
此満願寺八十八ケの中にあらずといへども大師草創の梵宮にて往昔は大伽藍なりしが破壊年久しく尽るになん々々とす。今出す所の霊場記道しるべ両通の料物をあつめ彼寺九牛が一毛修理せむ事それがし■【朔のしたに心】天の別願なり
南無遍照金剛           真念敬白
仏像文字共大坂北久太郎町心斎橋筋板木屋
并辺路札有            五郎右衛門刊之
とあり】
  ○遍路人渡海(とくはい)男壱人女壱人のくミ合ハ
   ならす男女ともに壱人ハならず
  ○宗旨(しうし)手形(てかた)ハ證明(しやうめい)の人あれバ西高津自性院より【異体字】出ル
  四国遍路道指南(しるべ)増補大成全
一 摂州大坂より(異体字)阿波徳島へ渡海之時
    切手支配  中之嶋  阿波屋勘九郎
          福 嶋  松島屋孫右衛門
        長ほり南かわ四ツばし少シ東平右衛門町
    下役人 印 ■【斜め井桁】 油屋善右衛門

  右油や方ニ而切手寺請船ともらちあき申候
  なる侍へし海上三十八里船ちん四匁
【指南には、「白銀弐匁上」】
一 讃州丸亀(かめ)へ渡海之義も右の方より【異体字】支配仕候
  海上五十里舟ちん四匁
【指南には、「白銀弐匁」】
【指南には、
右は大坂より両所へ渡海の次第かくのごとくなり。但他国よりハ其所々にて渡海の次第可相尋
とあり】
○扨志度寺(しとじ)ハ八十六番なるゆへに志度
 寺より札うちはじめ長尾(なかお)寺、一里。
 ながを村。ミやふし村。すきて
 八十七番長尾寺より【異体字】大窪(くぼ)寺迄四里前(まへ)に
 山坂あり。がく村ごま山とて大師御修行(しゆぎやう)

 の所あり経座とも云すぎて小坂あり
 八十八番大窪(くほ)寺是より阿州(あわ)霊山寺(れいせんじ)
 まで六里
○是より【異体字】阿州切幡(きりはた)寺迄五里ながの村是迄
 讃岐(さぬき)分。大がけ村是より【異体字】阿州分。いぬのはか村。
 ひかいだに村番所あり切手あらたむ大
 窪寺より是まて山路谷川あまた有
 是より切はた寺迄一里
一 阿州霊山寺より【異体字】札はじめ大師御巡行(じゆんかう)の

  次第【略字】といひつたふ与州讃州着(ちやく)船ニ而
  廻(めぐ)る人ハ十番切幡(きりはた)寺より【異体字】一番霊山寺迄逆(ぎやく)に
  札打十七番井戸寺十六番観音寺(くはんをんし)十一番藤井寺
  十二焼山寺十三一宮十四常楽寺十五国分寺より【異体字】
  右観音寺へ戻(もど)る徳嶋へ大道(だいどう)を行
一 阿州徳嶋着(ちやく)之ものハ恩山寺より札
  はじめすべし
○讃州(さんしゆう)丸亀(かめ)城下へわたる時ハ宇足津(うたつ)
 道場寺(だうちやうじ)より札はじめよし

○阿州徳嶋より【異体字】霊山寺迄二里半。徳嶋さこ町九丁目より【異体字】
 右行。やさう村。高さき村。此間にすミぜ
 川さだかた村。しやうずゐ村。此間に吉野川といふ
 大河有舟渡(わた)し也。川さき村。板東(ばんどう)村
一番霊山寺(れうぜんじ)【指南に「南むき平地」】阿州板野郡(いたのこほり)【指南に「板東村」】竺和山(ぢくわさん)一乗院(いちじやういん)と
号(がう)す此寺弘法大師(こうほふだいし)釈迦(しやか)大日弥陀(みだ)の三尊(ぞん)
を作(つく)り三堂(どう)別(べち)にたて給ひ就中(なかんづく)釈迦を
本尊とし天竺(てんちく)の霊山(れいせん)を和国(わこく)に移(うつ)せしにより
竺和山霊山寺といふ鳴戸(なると)見物(けんぶつ)の人ハ爰(こヽ)にて

たづねらるべし五里。三丁北に大麻彦(あさひこ)大明神伴社(ばんしや)
中宮西宮ありかならす参詣(さんけい)すべし
【本尊図】(座長二尺)霊山の釈迦のみまへにめぐりきて
           よろづのつミもきへうせにけり
是より【異体字】ごくらくじ迄十町板野郡檜(ひのき)村
二番極楽寺 【指南に「山をこし路にし東向」】日照(しやう)山といふ此寺行基(きやうき)ぼさつ
のはじめ給ふといへり本尊阿弥陀坐像(ざぞう)御長四尺五寸行基の御作(さく)なり左に薬師如来右に
弘法大師の御影(みゑい)あり

【本尊図】極らくの弥陀の浄土へゆきたくバ
     南無あミだふつくちくせにせよ
是より【異体字】金泉寺迄廿五町【指南に「三十五町」】。河はた村。同郡大寺村。
三番金泉寺(こんせんし)【これ又やまこし路にし南むき】亀光(きくはう)山釈迦(しやか)院といふ此寺
大師ひらき玉ひ釈迦如来御長三尺大師御作
亀山法皇(かめやまほうわう)の御廟【マダレに苗】あり
【本尊図】極楽のたからのいけをおもへたヽ【濁点】
     こがねのいづミすミたヽへたる
是よりくろだに迄一里。おかの宮大師堂あり。

ふき田村。いぬふし村。なとう村【指南に「標石有是」】より十八町
谷へ入ゆく板野郡黒谷村
四番大日寺 黒岩(こくがん)山遍照院(へんじやういん)といひ又ハ黒谷(くろたに)
寺とも云【指南に「後左右山南向」】本尊大日坐像(ざぞう)御長(たけ)一尺五寸大師
御作なり
【本尊図】ながむれバ月しろたへの夜半(やは)なれや
     たヽ【濁点】くろたににすミそめの袖
是より【異体字】ぢぞうじ迄十八町。同郡矢武(やたけ)村
五番地蔵寺【指南に「うしろ右やま南向まへにはす池中に弁財天のやしろ有」】 無尽(むじん)山荘厳(ぞうごん)院といふ熊野(くまの)

権現(ごんげん)御むさうの妙(みやう)やくあり寺にて売(う)らるべし
此寺ハ大師(し)此所にて熊野(くまの)権現(ごんげん)出たまひ霊
木(れいぼく)を大師へまひらせられ大師(し)其木にて地蔵(ぢざう)
ぼさつ一寸八ぶの尊像(そんざう)を刻(きさみ)玉ふ国民(くにたみ)霊異(れゐ)
をつヽしミ伽藍(からん)を立(たつ)といへり其後(のち)後宇多(ごうた)
の院(いん)の御時住持(ぢやうぢ)霊感(れいかん)乃事ありて御尺【ママ】一尺七寸の
地蔵を作らしめ彼(かの)一寸八分の古像(こざう)を新像乃
むねにおさめ又阿弥陀薬師の二像を作り両
脇(わき)におく熊野権現天照(しやう)太神のやしろ有
阿州(あしう)地蔵寺(ぢざうじ)奥院(おくのいん) 五百羅漢(らかん)集(しゆ)所
         本順(しゆん)ぎやくうちぬけ
 
【本尊図】六道の能化(のうけ)の地蔵大ぼさつ
     ミちびきたまへこの世のちの世
是より【異体字】あんらくじ迄一里。かんやけ村。七条村。ひきの村
六番安楽寺又ハ瑞運(ずいうん)寺とも云板野郡なり
大師薬師如来の坐像(ざそう)御長一尺三寸に作り伽藍(がらん)を
立安置(あんち)し給ふとや大師のころ迄此所に温泉(おんぜん)あり
薬師を本尊となされ温泉山と云よし
【本尊図】かりの世に知行(ちきやう)争(あらそ)ふむやくなり
     あんらく国のしゆこをのそめよ

是より十らくじ迄十町。同郡たかを村
七番十楽寺【指南に「うしろヤ山堂は南むき」】本尊坐像の阿弥陀如来極楽
の十らくをとりて寺の名とせり
【本尊図】人間(にんげん)の八苦(く)をはやくはなれなば
     いたらんかたハ九ほん十らく
是よりくまたに迄一里此間のはら也今ハ吉岡といふ。あわ郡となり村
八番熊谷寺【指南に「うしろ左右は山堂みなみむき」】 普明(ふみやう)山真光(しんくはう)院と云谷深(ふか)く水涼(すヽ【濁点】)し
本尊千手(せんじゆ)千眼観音作者(さくしや)不知(しれず)立像御長六尺

仏舎利(しやり)百廿六粒(りゆう)御くしに納るよし御足(みあし)のうらに記文(きもん)
有脇立不動毘沙門(びしやもん)運慶(うんけい)作御筆の額をかけたり
【本尊図】薪(たきヽ)とり水くま谷の寺にきて
     なんぎやうするものちの世のため
是よりほうりんじ迄十八町
九番法輪寺【指南に「平地南向」】 白蛇(ひやくじや)山といふ此地田野(でんや)にはさめり
本尊坐像の釈迦如来御長一尺八寸
【本尊図】大乗(たいしやう)のひはうもとかもひるがへし
     転法輪(てんぼうりん)のゑんとこそきけ

是より【異体字】きりはた迄廿五町あきつき村。きりはた村
十番切幡(きりはた)寺【指南に「堂南むき」】 得度(とくど)山灌頂(くはんでう)院と云寺の名を以(もつ)
て村の名とせり本尊千手観音不動(ふとう)毘沙門(びしやもん)
を両におけり皆(みな)大師の御作中門多門(たもん)持国(ぢこく)大門の
二王ミな運慶(うんけい)の作なり
【本尊図】よくしんをたヽ一すちに切はたじ
     のちの世まての障(さはり)とそなる
此所にて藤井(ふしゐ)寺焼山(しやうさん)寺とゆき戻(もど)りて田中法
満(わん)寺へ行といふ事を教(おしへ)る人多(おヽ)し益(ゑき)なし吉野

川と云大河を二度わたり道のそん二里斗有
大窪(くぼ)寺より【異体字】来る人ハ一番之霊山寺(れいせんじ)迄此書を逆(ぎやく)に
見るべし霊山寺より【異体字】是まて十里十ケ所と云是より【異体字】
藤井寺迄一里半。大野しま村。大八嶋村。此間吉の
川と云舟わたし有。それより【異体字】麻植(おゑ)村にいたる
十一番藤井(ふじい)寺 金剛(こんかう)山と名つく大師此寺を始(はじ)め
給ひ薬師如来御長三尺に作り本尊とし給ふ
【本尊図】色(いろ)も香(か)も無比(むひ)中道(ちうだう)のふじゐ寺
     しんによの波(なみ)のたヽぬ日もなし

是より【異体字】しやうさんじ迄三里山坂也【指南に「山坂にして宿なし」】一里半ゆきて
柳(やなぎ)の水と云有是ハ旅(たび)人渇(かつ)せし時大師【指南に「菩薩道具の」】楊枝(やうじ)
を以て加持(ぢ)し給ひ【指南に「路のかたはらに立たまへバ大悲の」】水ほとはしりいてあたへ玉ひ
し所也【指南に「いまにたえせぬ加持力」】楊枝(やうじ)をさしおき給へバ柳となり【指南に「ようじもいとうるわしき糸柳となりて」】其水
往来(ゆきヽ)の人渇(かつ)をやすめ利をうるもの也今柳乃
水に大師堂有宿(やど)かす人しるし石有これより
さうち村。谷川道こりとり川と云人留(たまる)こりをとる焼
山寺へ十八町のほる坂中に薬師堂あり
十二番焼山寺(しうさんじ)【指南に「「南むき」」】 名西郡摩盧(まろ)山性寿(しやうじゆ)院と号(がう)ス

山高く聳(そひへ)たり本尊虚空蔵(こくうそう)大師御作坐像四尺五寸
奥院(おくのいん)へハ寺より【異体字】十町余あり護摩窟(ごまのいわや)蛇窟(じやのいわや)な
といふあり大門より十八町坂をくたりて右衛門三郎
墓(はか)あり大杉【国字/キヘンに久】(すき)大サ七かいありといふ
【本尊図】のちの世をおもへハ恭敬(くきやう)しやうさん寺
     死出(しで)や三途(づ)のなんじよありとも
是より【異体字】一の宮へ五里。さうち村へもとり一の宮へ行て
よし。【指南に「寺より南八丁わきに右衛門三郎の塚しるしの杉并地蔵堂有」】あかハ村。ひろの村。にうた【入田】村二本木の茶(ちや)や
と云有しやうさんじより【異体字】是迄山道谷間(あい)川あまた有

十三番一宮寺【指南に「平地東むき」】 名東郡 寺ハ大栗山花蔵(かそう)院
大日寺と云大師大日如来の像を作り安置(あんち)
し給ふとなん今の本尊ハ十一面観音一の宮
乃御本地と聞ゆ此寺奥院(おくのいん)と号する所有
是より十八町西にあり霊地(れいち)あり
【本尊図】阿波の国一の宮とハゆふたすき
     かけてたのめや此世のちの世
是より【異体字】常楽寺迄十五町此間川有。ゑんめい村
十四番常(じやう)楽寺【指南に「平地南向」】 名東郡 盛寿(せいじゆ)山と云本尊

弥勒(みろく)■【クサカンムリに廾/ぼさつ】坐像八寸大師の御作【指南には「作者不知」】俗(ぞく)此てらを
矢野(やの)延命(ゑんめい)と云
【本尊図】常楽(じやうらく)のきしにハいつかいたらまじ【ママ】
     ぐぜひの舟にのりおくれずハ
是より【異体字】こくぶんじ迄八町。やの村
十五番国分寺【指南に「平地南むき」】 法養(ほうやう)山金色(こんじき)院と云国分寺
といふハ聖武(しやうむ)天皇(てんわう)詔(みことのり)して丈六(しやうとく)の釈迦(しやか)二■【クサカンムリに廾】(ほさつ)
を作り大般若(はんにや)を写(うつ)し天下一国に一寺つヽこん
立し給ふにより国分寺と国々にて名付今

此寺薬師如来坐像長一尺五分作者しれず
【本尊図】うすく濃(こく)わけ々々色をそめぬれバ
     流転(るてん)生死(しやうし)のあきのもミぢ葉
是より【異体字】くハんおんじ迄十八町。観音寺村
十六番観音寺【指南に「平地南むき」】 名東郡 光耀(くはうよう)山千手院と云
本尊千手観音御長六尺大師の御作
【本尊図】わすれずも導引(みちびき)玉へくハんおんし
     さいほう世界ミだのじやうどへ
是より【異体字】井土寺迄十八町。かうの村明神のやしろ道(せんにん有)【指南に「但いど寺より打はじむる時ハくわん音寺ににもつおく。藤井寺まで家つヽき此間おゑつか弥三右衛門遍路をいたはりやどかす」】

十七番井土(いと)寺 名東郡 瑠璃(るり)山明照(みやうしやう)寺真福(しんふく)
院と云聖徳太子(しやうとくたいし)の建立(こんりう)といひ又ハ行基とも云
大師あそび給ひ本尊薬師如来御長五尺両脇士(きやうし)■【クサカンムリに廾/ぼさつ】
四大王作り安置(あんち)し給へり鎮守八幡(まん)楠(くす)明神あり
【本尊図】おもかげをうつして見れハ井土の水
     むすべバむねのあかやおちけん
是より【異体字】おんさんじ迄五里あくひ川徳嶋までハ家つヽ【濁点】き
徳嶋せいミがはな。二けんや町此間につめた川はし有。
ほつけ川はし有壱丁ほど行しるし石有。にし

つか村川有まへ原村。しぼ村。たの村しるし石有
十八番恩山寺(おんさんじ)【指南に「南むき壱町余山上」】勝浦(かつら)郡此寺聖武天皇(しやうむてんわう)の勅(ちよく)に
仍(よつ)て行基(ぎやうき)■【クサカンムリに廾】造立(さうりつ)し給ひ本尊薬師の坐像
行基ミつから作り給ふ其後大師いたり給ひて
さいこうし御母の骨(こつ)をおさめ御はかを築(きつき)それより【異体字】母
養山(もようさん)恩山寺と号すとなん
【本尊図】子をうめる其父母のおんさんじ
     とふらひかたき事ハあらじな
次ニつるまき坂下(ふもと)釈迦庵(しやかあん)宝亀五甲寅年六月十五日弘
法大師誕生(たんじやう)の尊像をあんちし次藪(やふ)【指南に「とろやふ」】の下むつき納し所也

是より立江寺迄一里。天王村。たの中山。たち
江村。石はし八ツ有此橋上(はしのうへ)に白鷺(しらさき)居るときハ
通(とを)らずと云つたふ【指南には十九番の記中にあり「往来の人渡る事あし。をしてわたりぬれバあやまち有標石あり」】
十九番立江寺【平地ひがしむき】 橋池(きやうち)山地蔵院と云此寺聖武(しやうむ)
天皇御願(くはん)といへり本尊地蔵■【クサカンムリに廾】小像なりし
を大師爰(こヽ)にわたらせ給ひて六尺の像を作り
か乃小像をおさめ給ふとなり
【本尊図】いつかさて西のすまひのわがたちえ
     ぐぜひのふねにのりていたらん

是より【異体字】くわくりんじ迄三里たちえ村。くしふち
村しるし石有。左の方三十町程わきにいは
わき村取星(しゆせい)寺といふあり此寺大師加持(ぢ)
し給ふと云星石(ほしいし)あり【指南に「取星寺此寺に大師釣召の星有玲瓏として青黒色厨子びいどろ蓮花座に安ず其外霊宝多し。すこし本道よりまわりなり。同村正安寺御作の観音有。大道より五丁ほど左標石有」】是より又二十町ほど
過ぎて星谷(ほしたに)といふあり星の岩屋(いわや)三間四方
もありなん半(なかば)に数丈(すじやう)の瀧(たき)あり名区(めいく)なり【指南に「なかつの村十四五丁北かつら川をわたり星谷岩屋寺に広十畳敷三角のいわほ有此中に明白なる鏡石あり三丈許の瀧ありかたはらに弁ざい天の社有。取星寺のほし天降給ふ石とて十丈余の大石あり。霊場目をおどろかす。かならず立よらるべき所也。ほし谷より鶴林寺奥院まで三里。此間半里川ばたを行。よこせ村ほし谷へよらず鶴林寺へ直に行ときハもり村是より鶴林寺へ十八町坂。但奥院へかける時には森村より二里半。此間かつら川有。もり村より是まで十五丁余此所五郎兵衛ところに荷物おき奥院へ懸る。与川内村」】此
星谷より行て坂本といふ村有此所に大師
宿(しゆく)し給ふ時霜(しも)いたくふり人寒気(かんき)になや
めり大師きこしめし加持(ぢ)し給ひしより此里(さと)

霜ふらずとなり村ハ殊に霜ふる。【指南に「此村大師回場の折ふし、かりのやどりのやどなく霜ふかき萩ののらに御枕をかたむけいのらせ給しより今のよまで此里人露霜を見る事もなし御ふしどの跡とて今にあり。又長福寺古仏あまたあり。きハだ村。坂本にことなり霜ふかけれバ際立といふよし。おかし」】星谷
より半里川はたを行。よこせ村。星谷へよらずくわくりんじへすぐに行時ハ。もり村是より【異体字】
くわくりんじへ十八町坂也。奥院(おくのいん)へかける時ハ
もり村より【異体字】二里半此間かつら川有。与川内村。坂本村。きハた村。大くぼ村すこし行て
灌頂(くはんてう)が瀧(たき)不動明王(ふとうみやうわう)つねに現(けん)じ給へり【指南に「おがミしよなり。くハんじやうが瀧又ハ不動のたき共いふ。日に三たび明王五色の雲とともに降臨し給ふ辰巳の刻にいよ々々たしかにおがまれさせ給ふ。おがミしよより八町あがり奥院へいたる」】
○月頂(ぐわつてう)山慈眼(じかん)寺右の瀧より八丁のぼる是を
鶴林(くはくりん)の奥院と云本尊不動【指南に「上人の作」】又三丁余西

に堂有十一面不動大師御作也此上方千尺
のけハしき岩端(がんたん)に壱丈ばかりの卒都婆(そとば)有
大師立玉ふと云人間のわざにおよぶ所にあら
ず又傍(かたはら)に岩屋(いわや)あり二十間ほど行自然石(じねんせき)の
仏(ぶつ)ぼさつ色々(いろ々々)のふしぎなる事あり【指南に「少のぼり岩穴あり口に一心といふ白字御筆のよし俗胎内くぐりといふ。入口ほそきゆへ。いつも身にうすきものをき。あない者たいまつし二十間ほど行じねんせきのほとけ。まんてんがい。金剛杵。諸仏。龍等あきらかにおがまれ給ふ。又十間余ゆき口六尺高さ壱丈余。其おく二十畳じきほど。四方岩にまんだら。大師御ほり即護摩并聞持法なされし。口よりおくすべて三十間余霊洞ことばに演がたし。歌ニ天飛やつるおくやまおくさへてたのむふかさやのりにかよはん。是より荷物をきたる横瀬へもどる」】是より
よこせへもどり。たなこ村
廿番鶴林(くはくりん)寺【たつミ】 霊鷲山(れいしゆせん)宝珠(ほうじゆ)院と云此寺の
はしめ大古(こ)なり大師いたり給ふ時樹上(きのうへ)に鶴(つる)有
翅(つばさ)の下(した)より光明(かうみやう)現(けん)ぜしを大師御覧(らん)じそれハ

地蔵の金像(こんぞう)也其とまりし木を切御長三尺乃
地蔵を作りかの金像を納(おさ)め伽藍(からん)を立給ふ
【本尊図】しけりつる鶴(つる)のはやしをしるへにて
     大師そいます地蔵帝釈
是より【異体字】大龍(りう)寺迄一里半。加茂へ行時ハ二里也。【指南に「道ハちかミちなり。大師御行脚のすぢハ加茂村其ほど二里。旧跡も有」】大
井村なか川舟わたし。わかすき村家四五軒(けん)あり
廿一番大龍(りう)寺【指南に「たつミむき」】 那賀郡 舎心(しやしん)山常住(しやうぢう)院と云
本尊虚空蔵(こくうそう)大師御作也【指南に「秘仏」】此所大師少年の時
霊を感(かん)じ求聞持(くもんち)を修(しゆ)し給へり霊験(れいけん)大師

ミつから三教指帰等にのべ給ふ名区なり
【本尊図】大龍(りう)のつねにすむぞやけに岩屋
     しやしん聞持(もんぢ)ハしゆごのためなり
是より【異体字】平等(ひやうとう)寺迄二里。三十【異体字】町程(ほと)深山(しんざん)。本道ハ山口村に
かヽる三里也【指南に「今の道はすぐなり」】。あせび村。おヽね坂。あらたの村。
廿二番平等寺【うしろやまミナミむき】 白水(はくすい)山医王(いわう)院と号(かう)す此寺
大師開(ひら)き給ひ薬師御長二尺坐像作り安置し玉ふ
【本尊図】平等にへだてのなきときく時ハ
     あらたのもしきほとけとそ見る

是より【異体字】薬王寺迄七里。寺のまへ川わたり廿町ほど
は村つヽ【濁点】き。月夜(よ)村【指南に「此名子細あり。たづねらるべし」】。かねうち坂ふもとに茶屋
あり。さかせ川此川の蜷貝(になかい)人の足(あし)にたちていた
める【に欠カ】より大師加持し給ひわたる所はかり貝のと
がりなし。小野村此間松坂しるし石あり。たい村
とまこえ坂。【指南に「きヽ浦。清左衛門やどかす」】おほ坂(せんにん有)。ひわさたい村をた坂くたり
川あり。北かわち村。ひわさ村浦(うら)川あり
廿三番薬王(やくわう)寺【指南に「うしろやま南むき」】 海部(かいふ)郡医王(わう)山無量寿(むりやうしゆ)院と
いふ行基(ぎやうき)■【クサカンムリに廾】開基(かいき)なり後(のち)に大師あそハせ給ひ

薬師如来の像を作り安置し給へり【指南に「秘仏」】塔の本
尊千手観音脇士(きやうし)二十八部(ふ)ミな行基乃御作
是より【異体字】西六十余町をへだて奥院(おくのいん)ありあやしき
岩(いわ)やに大師御作の本尊ましませり奇瑞(きずい)の事有
【本尊図】それ人のやミぬるとしのやくわうし
     るりのくすりをあたへましませ
右阿波分是より【異体字】土佐(とさ)ひがし寺迄廿一里内十
里阿波分。かた村。よこかう坂。山川内村こヽに
うちこし寺真言(しんごん)道場(とうちやう)遍礼(へんれい)いたハりにて国

主(こくしゆ)より【異体字】こんりう有少ゆきかんばう坂山越。たち
はな。こまつ。ほとり。かうち。むぎ浦。ひわさより【異体字】
是迄山谷川多(おほ)し。あふ坂と云坂有あさ川迄
二里。此間八坂坂中八濱湊中有。此次第【略字】あふ
坂【このあふ坂にて。いにしへ。行基ぼさち。さばといふほつけし馬追男とゆきつれ。いかなる方便にや鯖一つこわせ給しに彼男いかりのり奉りけれバ御歌あふ坂や八坂の中さばひとつ行基にくれでこまぞはらやむ。とつらねたまひけれバたちまちその馬たほれふしぬ。男おどろき、かくただ人ならぬ御方しらぬは、しづのわざとひれふしてわびたてまつりけれバ又あふ坂や八坂の中鯖ひとつぎやうきにくれて駒ぞはら止。馬をとりあがり本のごとくなりぬ。菩薩同事の済度よしある事にや】。うちすま。松坂。ふるえ。しだ坂【しば坂カ】。ふくら村。ふくら坂。さはせ村。はきの坂。さか中大すなと云
はま。かちや坂。あわの浦坂過て天神の宮有。
いせた川しほミちクレバ川上へまわりてよし。
いせだ村。あさ川浦大道より【異体字】左に町有。いな村(せんにんあり)

観音堂あり。からうと坂是迄八坂坂中八
濱(はま)濱中。めんきよ村大師堂あり村はづれ
より東に海うら。おくうら。ともうらといふ
町ミなとにぎやか也此町へ入大道へ出れハま
ハり道也おくうらより【異体字】のさ【なさカ】村へ出る【大道へ出れバまハり道ゆへに奥浦橋本や右衛門作ともうら島屋久佐衛門両人として皆共成仏道のため。すぐ道をつけ奥浦より那佐村へいづる】。めんきよ村
より此間に川あり【指南に「おく浦へ行にもこのかわをわたる」】。たかそね村大師堂
あり次に母(はヽ)川といふあり【大師御じゅん礼の折ふし。旱にて魑魅鬚焦れ河伯民つきけるに一人の女のはるばると山間より水をひさげて来りしに大師一滴を乞せたまひけれバ女の申けるハ亢陽月久しくて一人二人のいとけなき渇をミるに忍びずして命をがんくつになげうち求得し。幸に今日わがはヽきぎのことぶきつき給ふ日なれバ三宝に奉るとておしむいろなかりけれバかの女まことの慈悲水に大師加被の月うかぶ河水となりていかなるひでりにもつくることなし】。なさ坂。なさ村。
しヽくい浦町有。【指南に「入口右ぎをんのやしろ」】円頓密寺(ゑんとんみつじ)ハ遍礼(へんろ)人のため
守護(しゆご)より【異体字】たてらる次に川わたりて阿波さ

かひめ番所(ばんしよ)古目(こめ)といふ所に有往来(ゆきヽ)の切手(きつて)
改(あらた)む。行過坂あり阿波土佐両国境(さかい)乃峠(とうげ)
あり。かんの浦是より【異体字】土佐領(りやう)入口に番所あり
土州一国のかきかへ出る也【指南に「まち中にやしろ有」】。かたはら町みなと
よし白はま町社【指南に「明神の社」】有すきて川しるし石有。かん
のうら坂いくミ坂とも云。いく見【生見】村。あいま【相間】此間【指南に「此おきの岩に法然上人の筆みだのミやうごうありて汐干見ゆるといひつたふ。此間」】
に小坂あり。のね浦(せんにん有)入り口に宮并大師堂あり【指南に「五郎右衛門やどをかす其外志有人多し」】
此所にて萬調物(よろづとヽのへもの)してよし町のまへ川有。
ふじこえ番所(ばんしよ)爰(こヽ)にてかんの浦切手(きって)うら書(かき)

出る。ふじこえ坂是より【異体字】一里余ハとび石とて海べ
なり。入木村八まんの宮。先のはまうら乃
手より是迄四里。おさき村かふか坂村【かおか坂村カ】も
あり。しいな村。かミみつ村。下ミつ村是より
ひがし寺迄廿町。【指南に「見所おほし。まづ大あな。おくへ入事十七八間高壱丈或ハ三四丈広ハ二三間或は五けん十間。太守いしをうがち五社建立あり。愛満権現と号す。この岩屋に毒龍ありて人畜をそんがいしけるに大師辟除し其あとに権現を安置し給ふ。東に太神宮御社有。過て霊水これを亡者にたむける。過て聞持道場。又庵有。うしろに岩窟。奥へ五七間。本尊によいりん石仏。坐二尺。龍宮より上り給ふよし。石にてづしだん。わきだち二尺六寸の二王。両のとびらに天神のうけぼりことごとく石なり。権化にあらずバたれか此妙用をなさんや。その外龍燈時にあがり霊瑞無辺の幽渓なり」】本尊石仏(せきぶつ)の如意輪(によいりん)観
音龍宮(りうぐう)より【異体字】上り給ふよし東(ひがし)寺ハ女人きんぜい
なり故(ゆへ)に爰(こヽ)にて札(ふた)おさめ海辺(うみべ)を津呂浦(つろうら)
へ出る男ハ是より【異体字】東寺迄七町坂霊地(れいち)多(おほ)し
         
土佐分→   

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