四国遍礼霊場記
 
▼里前神寺(六十四番)
 

 
 新居郡氷見村にある。石土山には滅多に参詣できないので、この寺から拝むことになっている。石鉄山奥前神寺を金色院と号す。本堂・護摩堂などが軒を連ね、中心となる神社は釣殿・拝殿が立派に整えられている。伴社も多い。大和国大峯、伯耆国大山と同様に、役行者が霊験を感じて籠もった場所だ。他の二山と同じく、蔵王権現が示現した霊地である。中でもここは、役行者が最初に苦行した場所だと伝えられている。山頂に登るには、三日を要する。春と冬は雪が積もり氷が柱となって、道を通れない。六月一日から三日間だけ登ることが許される。これは富士山と同じだ。最初の二里は夜中に松明を灯し、真言または阿弥陀の名号を唱えながら登る。その後は、精神を集中させ息を呑み、刺々しい岩を踏みしめ登っていく。道が途切れ、鎖を伝って行く所が五つある。一の坂、第二・表白坂、第三・禅師が峯、第四・大窪の森、第五・せりわりが嶽。いずれも横に鎖を掛けている。第一の鎖は八十六尋、第二が三十三尋、第三が三十六尋。これから先は都率の内院と呼ばれ、どのような場所かを人に教えてはならない。登頂に成功することを、禅定という。山の中には変わった形の木や珍しい草が生い茂り、奇岩などには総て神や仏が宿っているという。山頂に不老池がある。
 本社から東南に、九層の石塔がある。自然の造形らしい。高さは二十余丈あり、四方の側面は各六七歩、中には大日如来がいる。空海が護摩を修した場所だという。ここから三町ばかり離れた岩屋は、仙人が開いた。本尊として薬師如来像を安置している。
 四国最大級の山で【現代に至るまで剣山が最高峰だと信じられていたが新たな測量の結果、石鎚山が最高であると確認された】、頂から見れば、諸々の山を皆、見下ろせる。独り立ち、肩を並べる山はない。紅色の雲が絶えず湧き、陶然とした心持ちになる。特殊な飛行具がなくても雲海に入っている。そのような場所が、まさに、ここだ。この寺も、横峯寺と縁起を同じくする。石仙の話は、横峯寺の部分で書いたので、ここでは語らない。
                            
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